研究室とキャリア形成 / Laboratory and Career Development
学生さんの多くは、学部4年生から所属する研究室での研究活動(学士特定課題研究や修士論文など)が、どのような能力・専門性を高め、自らの将来につながっていくのか?、気になるところと思います。新たな知を創出する研究活動(プロセス)そのものを体得することに重要な価値があることは確かですが、特に水・環境分野の研究に従事することに意味を見出すとするならば、下記のような点かと思います。
【社会と環境の境界で物事を捉える】
環境への影響を適切に評価することは、ほぼすべての土木事業・開発に必要不可欠な視点であり、我々の分野が「土木・環境工学」と呼ばれる所以でもあります。従来から有明海や長良川、また最近では大井川など土木事業をめぐり社会的問題に発展することは少なくありません。ローカルな環境問題のみならず地球規模で様々な環境問題が進行しています。環境問題は我々人間、すなわち社会の問題です。私たちが安心安全で快適な生活を送るとともに、美しい自然を未来永劫残していくためには、人類が環境へ及ぼす影響を理解し、未然に防いでいく必要があります。我々の研究室では、流域での人間活動(水処理や土地利用方法[農業など]など)が環境(例えば、ダム湖や河川、沿岸域の水質や生態系)に及ぼす影響について、野外調査や室内実験、化学分析、生物分析等を通して様々な視点から評価し、持続可能な開発や環境保全に資する方策を提案しています。特に、水質の中で重要となる有機物動態に関する研究では、質量分析を用いて世界をリードする成果を挙げており、流域レベルでの持続可能な水・土地利用の観点から科学的知見を提供しています。こういった研究を通して、人間活動と環境への作用、その帰結、政策へのフィードバック、そして、考え方や調査手段、結果の解釈などについて高い専門性をみにつけることができます。研究活動を通して、環境の視点から物事を捉える能力が養われますので、卒業生の就職先を見ましても土木事業・開発を扱う企業全般や国・地方自治体に就職している特徴があります。例えば、近年の卒業生の進路として、電力・再生エネルギー会社、通信・IT、鉄道、官公庁、総合コンサルなどが挙げられます。
【新しい水処理技術で環境を保全し、安全な水をつくりだす】
環境を保全するためのプロセスには複数のステップがあります。まず、調査や実験などを通じて人間活動が環境に及ぼす影響の実態を解明・把握し、そのうえで効果的な法制度的・技術的対策を考え、実装するということになります。具体的な対策としては、化学物質の排水規制であったり、汚染物質の除去技術の適用であったりします。現代社会では10万種を超える化学物質が使用され、その数は増加の一途を辿っています。そういった化学物質をどのような国においても処理できる、低廉で効果的な水・排水処理技術を開発することが、SDGsを達成するためにも不可欠となります。本研究室では、機能性バイオ炭などの多様な微量有機汚染物質を除去可能な新規吸着材の開発や、数千の微量汚染物質を網羅的に検出可能な質量分析技術の開発、バイオガスを生成可能な微生物排水処理技術(嫌気性消化などの微生物処理)の開発などを中心に、排水処理における新たな要素技術の開発を行っています。研究活動を通して、環境保全(水質保全)や水処理に関する専門知識を習得できますので、水処理に関する研究開発(博士課程進学、企業での研究開発[例えば、水ingなど])に興味がある方はこういったテーマも良いと思います。ただ、上述のように水分野に関する環境保全を扱っているという特徴から、水質保全や水処理に関する研究テーマに従事した学生さんでも、土木事業・開発を扱う企業全般に就職している傾向にあります(交通、電力、コンサルなど)。
【 国際的な視野を醸成する】
途上国を中心に上下水道が十分に普及していない国・地域は未だ世界中に多く存在し、SDGsの達成においても安全な水へのアクセス、衛生設備の普及がカギを握ります。本研究室においても、環境やエネルギー負荷の小さい上下水処理技術(物理化学処理、生物処理など)の開発を行っていますが、エジプト、中国、スリランカ、インドネシアなどの研究員、留学生とともに途上国に適用可能な技術について日夜研究に励んでいます。また、エジプトとはODAなどを通じて、共同研究(エジプト・日本科学技術大学)などを実施しています。こういった国際色豊かな環境の下で、多様な研究者・留学生とともに数年間の研究を進めることで、環境に関する専門性のみならず国際的な視野・価値観が身につきます。環境分野における専門性・国際性がいかせる分野としては、特に、国際協力機関(JICAなど)、建設系の総合コンサル、国際機関などが挙げられると思います。
研究室で行っている研究テーママッピング